Old soldiers never die
大相撲の元大関・琴風が「後進に道を譲るべき。老兵は消え去るのみ」という希望を持って退職する旨のニュースを見ました。
Old soldiers never die, they simply fade away
老兵は死なず、単に消え去るのみ
兵隊歌「Old Soldiers Never Die」の一節だそうで、元々は「兵士は老いながらも生き続けることはできるが、戦争を戦い抜いた兵士も、時間と共に忘れ去られていく」という意味だったのが、アメリカ陸軍元帥のマッカーサーがアメリカの連邦両院議会集会での退任演説で引用したことで、「戦場で死ぬことなく軍を去ることになった自身のことを誇った言葉」というようなニュアンスで解釈されるようになったようです。
琴風の退職のニュースに触れて、風姿花伝の一節が頭に浮かびました。
これ、まことに得たりし花なるがゆゑに、能は、枝葉も少なく、老木になるまで、花は散らで残りしなり。これ、目のあたり、老骨に残りし花の証拠なり。
風姿花伝第一「年来稽古条々」の「五十有余」より、世阿弥
・・・この花は、観阿弥がまことに会得した真実の花であったために、実際の動きは最小限で、あたかも もう枝も葉も少なくなった老木のようになっていても、それでも花は散り失せずに残っていた。これが目の当たりにした「老いてなお残っていた花」のなによりの証拠である。・・・
このフレーズの前には、「物数をばはや初心に譲りて、やすき所を少な少なと、色へてせしかども、花はいや増しに見えしなり。」(・・・ほとんどの演目を若い者に譲って、自身は体に無理のないところを、動きはかなり控え目に舞いながら、しかし彩りをしっとりと込めて演じたので、老いてなお「花はいよいよ盛り」に見えた・・・)とあります。
晩年の夏目漱石が好んだと言われる「則天去私」という言葉、そして元・総理の福田赳夫は、自民党総裁選で現職として田中角栄に敗れた後の記者会見で語った言葉が「民の声は天の声というが、天の声にも変な声もたまにはあるな、と、こう思いますね。まあいいでしょう! きょうは敗軍の将、兵を語らずでいきますから。」という言葉を遺して総理総裁を退いています。
聖書の中で、洗礼者ヨハネが、イエスのことを「あの方は栄え、わたしは衰えねばならない。」(ヨハネによる福音書 3章30節、新共同訳聖書)というのは、少し意味が異なりますが、” fede away ” の「在り様」だと感じました。