ピグマリオン効果

 My Fair Lady、60年前の1964年に公開されたオードリーヘップバーン主演の映画です。お気に入りなのでDVDは手元にありますが、残念ながらローマの休日のDVDは持っていないです。

 下町生まれの粗野でコックニーという下品な言葉遣いの花売り娘イライザ(オードリーヘップバーン)を、言語学が専門のヒギンズ教授によって、イングランド南部の教養のある階層の容認発音( Received Pronunciation, RP)をするレディに仕立てあげるというストーリです。コックニーの特徴としては、二重母音や長母音の発音が標準的なイギリス英語と異なっているようで、たとえば[eɪ]が[aɪ]・・・「day[daɪ]」や、[iː]が[əi]・・・「keep[kəip]」のような発音になるそうで、そのような発音はイギリスでは下品で粗野な言葉遣いになるそうです。

 ピグマリオン効果とは、教える側の期待によって学ぶ側の効果が向上する心理的行動を言い表す教育心理学の用語です。一般に「褒めて伸ばす」と言われるようなことで、My Fair Ladyはヒギンズ教授の指導の下に、イライザ役のオードリーヘップバーンが、苦労しながらも容認発音RPを習得するというストーリです。

 もちろん、今・現在は「学習者が自ら学習を行っていく」という、自ら学ぶ意欲を持たせ、教師はアシストをするという視点に重点が移っているので、ピグマリオン効果に対する批判もありますが、「個に応じた褒め方」という教師側のアシストに関する視点も大切ではないかと思います。

 ピグマリオン効果というのは、バーナード・ショーの戯曲「ピグマリオン」がルーツだという知識はあったのですが、ピグマリオンって何だろうと思って調べると、哲学者のカントに影響を与えた「エミール」の著者・ルソーの戯曲に「ピグマリオン」というのがあるそうで、さらに遡ると、ギリシア神話に登場するキプロス島の王の名前がピュグマリオーン(Pygmaliōn)で、これが大元のようです。

 ギリシア神話によると、ピュグマリオーンは現実の女性に失望し、自ら理想の女性を彫刻したそうで、その像が服を着ていないことをピュグマリオーンが恥ずかしいと思い始めたそうで、ピュグマリオーンはその像に服を彫り入れたそうです。そしてピュグマリオーンはその像に恋をするようになり、食事を用意したり話しかけたりするようになったそうで、ついにはその像が人間になることを願うまでに至ったそうです。その像から離れないようになって次第に衰弱したようで、愛と美と性を司るギリシア神話の女神・アプロディーテーが、ピュグマリオーンする姿を見かねて、その像に生命を与えたそうです。そしてピュグマリオーンは、生命を吹き込まれた像を妻に迎えた、という物語です。ルソーの戯曲「ピグマリオン」では、生命を吹き込まれた像をガラテアと名付けています。

 映画My Fair Ladyでは、丹精込めて容認発音RPをするレディに仕立てあげた花売り娘イライザ(オードリーヘップバーン)のことを、いつしか忘れられない存在になっていくという、ギリシア神話のピュグマリオーンとガラテアとオーバーラップするようなストーリーに展開していきます。

 愛着(attachment)なのか、それとも愛情(Love)なのか・・・考えさせられます。

itsumi
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