原爆裁判
先週の朝ドラ「虎に翼」では、昭和30年代に被爆者によって原爆投下の違法性が初めて法廷で争われた国家賠償訴訟「原爆裁判」がメインテーマでした。広島や長崎で被爆した人たちが日本政府の責任を追及した裁判で、朝ドラの主役・寅子(伊藤沙莉)が所属する東京地裁の民事24部が担当し、昭和30年に訴えが起こされてから4年間に及ぶ準備手続きの後に、昭和35年2月から38年3月までの間に9回の口頭弁論が開かれ、右陪席の裁判官として一貫して担当しています。
この裁判の大きな争点である「原爆投下が国際法違反かどうか」に関して原告の被爆者側と被告の国とが、それぞれ国際法学者を鑑定人として選任して、被告の国側の「鑑定人」である法学者に対して、寅子(伊藤沙莉)は裁判官の一人として「被爆者は誰に救いを求めれば良いのか?」と質問して「法学者として、答えを持っていない」と鑑定人が回答をしています。
3人の裁判官で、判決文を検討する中で、法的には国への賠償を求めた原告の請求は退けられるしかないという結論に至る中で、寅子が「それだけで良いのか?」という疑問を投げかける場面がありました。
そして昭和38年12月に言い渡された「原爆裁判」の判決のシーン、「主文後回し」で理由から読み上げるのは当時の民事裁判では異例のことだったようです。「国際法からみて違法な戦闘行為」と裁判長が明確に認めて、そして被爆者への援護策を国に強く促した形になっています。
後回しになった主文では、国への賠償を求めた原告の請求は退けられ、原告が負けた判決であり、国側は勝訴したので、判断内容(国際法からみて違法な戦闘行為であり、被爆者への援護策を国に強く促したこと)が不服でも控訴せず、原告も控訴をしなかったので、判決文に含まれていた「国際法違反」という判断が確定されたことになっています。
判決の4年後の昭和42年に内閣総理大臣の佐藤栄作によって「核は保有しない、核は製造もしない、核を持ち込まない」という非核三原則が表明され、更にその翌年の昭和43年に被爆者特別措置法施行、そして32年後の平成6年に被爆者援護法施行、その翌年の平成7年に国際司法裁判所(ICJ)が核兵器の使用・威嚇は「一般的に国際法違反」との勧告的意見が出て、今から7年前には国連で核兵器禁止条約が採択され、3年前に核兵器禁止条約発効されています。
朝ドラでは主人公の寅子(伊藤沙莉)が「はて?」というセリフで、本質的な部分に関して疑問を持つシーンが何度も出てきましたが、寅子が被告側の鑑定人に、「被爆者は誰に救いを求めれば良いのか?」と訊いたことが、法的な問題を超えて、原爆裁判の本質を問うた判決への流れになったように感じました。