聖書の原典・聖書セミナー

  2月の木曜の4週4回、神戸バイブル・ハウスでの聖書セミナー「サムエル記の脇役たち」に参加しました。

 セミナーの司会・進行は神戸改革派神学校長で神戸バイブル・ハウスのセミナー委員会長の吉田隆牧師で、講師は旧約聖書の知恵文学がご専門の勝村弘也先生で、2月5日は「ハンナとエリ」というタイトルの講演でした。サムエル記に描かれている脇役にスポットを当て、人物像を浮き彫りにするような話かと思っていたのですが、旧約神学者として、ヘブル語の本文批評に基づく釈義をしながら物語神学的に話を進めるスタイルでした。

 冒頭でヘブル語旧約聖書の原典に関しての話があり、サムエル記上の13章の冒頭は、現在見つかっている写本からは損傷・欠落による異読が多く、七十人訳(LXX)・死海文書(4QSam)・サマリア五経的伝承・古ラテン訳でも異なり、そして翻訳聖書での扱いが多種多様という話から始まりました。実際にいろいろな翻訳聖書でサムエル記上の13章1節を見比べました。

サウル三十歳にて王の位に即つく彼二年イスラエルををさめたり
 [文語訳聖書]

サウルは三十歳で王の位につき、二年イスラエルを治めた。
 [口語訳聖書]

サウルは三十歳で王となり、十二年間イスラエルの王であった。
 [新改訳]

サウルは王となって一年でイスラエル全体の王となり、二年たったとき、
 [新共同訳]

Saul reigned one year; and when he had reigned two years over Israel,
 [KJV]

Saul was thirty years old when he became king, and he reigned over Israel forty- two years.
 [NIV]

Saul was… years old when he began to reign, and he reigned…and two years over Israel.
 [NRSVUE2021]

[ Saul was…years old when he became king and he reigned…-two years over Israel. ]
 [NAB revised edition]

Saul was a young man when he became king, and he ruled Israel for two years.
 [CEV]

日本語訳と英語訳のそれぞれの聖書で翻訳内容にズレがあるのがわかります。サウルが王位に就いた年齢に関して、
30歳:文語訳、口語訳、新改訳、NIV,
…歳:NRSV,NAB
若者:CEV
記載なし:新共同訳、KJV,

イスラエルを統治した期間に関する記述
2年:文語訳、口語訳、NRSV。CEV
1年:新共同訳(王に就いて1年経ってイスラエル全体の王)
12年:新改訳(王の在位期間と同じと解釈)
42年:NIV
…2年:NAB

王に就いていた期間
2年:文語訳、口語訳、新共同訳、KJV,NRSV,CEV
…2年:NRSV
42年:NIV

  (1)サウルが王に就いた年齢、1Ssm13:1における(2)王位の期間、(3)イスラエルを統治した期間に差異があり、記載のない翻訳、謎としているものがあり、翻訳聖書を読む一般のキリスト者にとって「聖書は誤りなき神の言葉です」と言った場合に、特にプロテスタントの「信仰のみ」という場合の信仰の基となる「正典としての聖書」の正確性が、翻訳聖書では担保されないのではないかと感じました。

 「聖書は誤りなき神の言葉です」という場合の聖書が原典におけるものだとしても、現時点でのヘブル語旧約聖書の原典が、損傷・欠落による異読が多い現状で、現実に今現在手元にない原典に関して「聖書は誤りなき神の言葉です」というのは、どう捉えれば良いのか?考えさせられました。

 最近知ったのですが、聖書協会世界連盟(UBS)が既に刊行しているUBS第6版(UBS6)と、今後刊行されるネストレ=アーラント第29版(NA29)では、新約聖書の書巻順が従来の福音書→使徒言行録→パウロ書簡→公同書簡→黙示録から変更されるようで、写本比較プロジェクト「ECM」の成果を取り入れて、初期教会で文書がどのように伝えられ、どのようなまとまりとして扱われていたかというコーパス(書巻のまとまり)を歴史的に反映した並びが提案され、それを取り入れるようです。

 結果的に、これまでのジャンル別から伝承史的コーパスに従って、古代教会では、公同書簡が福音書に近い位置に置かれるケースが多かったことや、それに伴ってパウロ書簡が後ろに回されることになるわけで、歴史的多様性を踏まえて、より初期の伝承に近い構造を採用しようとの判断だそうで、

「福音書→使徒言行録→公同書簡→パウロ書簡→黙示録」となって、書簡の順序も変わるようです。

 UBS6とNA29の新約聖書の順番が変わることを受けて、今後刊行される新しい日本語聖書に関しても、新約聖書の文書の順番が入れ替わった聖書が10年、或いは20年後には書店に並び、教会でも、新しい順番となった聖書となるかもしれません。





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